揚水式発電のための候補地の提案と潮力利用の新しい考え方(1998)

これは10年以上前(初稿は1997年の7月頃)に私が、素人で思いついたアイデアを論文投稿した時の文章です。酷く稚拙で恥ずかしいのですが、面白いアイデアでもあるので原文のまま載せます。スタイルのみやや変更。
今の技術や経験上より有効な提案をもっていますが、それはまた後日書きたいと思います。

当時何が言いたかったかと言えば次の二点です。


abstract:

  • 芦ノ湖と海で揚水発電すると、十分なタービンと水路があれば理論上2500kWの出力が得られますよ東京電力管内ほぼ完全ピークシフトできますよ)
  • その場合揚水の下ダムに海を使えば、潮力利用できますよ(高度から推定すると、寄与率は0.1%オーダー)

 揚水式発電のための候補地の提案と潮力利用の新しい考え方


  • エネルギー。

 日本のエネルギー資源は少ない。主要エネルギー資源である石油、石炭、LNG(液化天然ガス)、ウラン、それぞれのフローを見ると、日本は資源のブラックホールのようにも見える。かといって日本以外の世界に資源が沢山あるわけではない。
 このままの消費ペースで行くと、重要なエネルギー源である石油の可採年数は約45年となっている。
 しかし可採年数とは単純に、採算の合う確認埋蔵量を年間の使用量で割っただけのものであり技術革新や資源の枯渇などの状況の変化でそれなりに経済性が変わってくるから、一概にあと50年で石油は尽きるとは言えない。しかし、依然として少ないことに変わりはない。
 大量のエネルギー源になる可能性のある核融合利用が出来れば話は別だが、将来のことをきちんと考えればエネルギー効率を上げることや、新エネルギーの開発やそれを含めたエネルギーのベストミックスは重要な課題だろう。

  • 電力のピークシフトと揚水式発電所

 水力発電は燃料費がタダで安定していて資源枯渇の心配がない。しかもクリーンである、3000年の昔中国の黄河などから利用され、日本では昭和30年代の初めまで50%以上の電力を供給している。風力や、太陽光発電より遥かに大きい電力を供給できる基本的エネルギー源である。
 しかし近年電力の増大は莫大である。その中で水力発電力量の占める割合は僅か数パーセントである。
 より現在の電力消費に対応した形として揚水式発電でのピークシフトというものが現れ水力発電の主流となっている。揚水式発電とは総合的に見るとそれ自体は発電力量に寄与はしていない。夜間の安価な電力で水を汲み上げ昼間の電力ピーク時に汲み上げた分を放水し発電するというピークシフトのための発電方式である。
 電力を効率よく活用するには。原子力、水力、石炭などのベース供給力を効率よくピークシフトしていくことが重要だ。
 現在ピーク供給力に使われる資源は、大部分が需要変動に上手く対応できる石油とLNG、LPGである。
 しかしそれらは可採年数がどちらも50年前後になっている(勿論その数値にはかなりの誤差がある)。つまりピーク供給力の資源が減少してきたとき電力にそれら便利な資源を浪費することは避けなければならない。
 ピークシフト効果は日本で4.4%である。効果が上がれば上がるほど最大電力のための設備費を節約でき、発電効率も上がる。揚水式発電所がそのための大きな役割を持っている事は、先ほど触れた現在水力発電の主流になっていることからも推し量ることが出来る。
 揚水発電の問題点として、水を貯めるためのダム建設が容易でかつ揚水式として使える場所が少ないこと、ダム建設のための環境変化などが挙げられる。

  • 揚水式発電のための提案。

 従来のような山の中ではなく、「海に近く標高の高いダム」を提案する。
 利点を幾つか挙げる。
 第一に山の中にも適地は限られていること、より広く場所を求めなければならない。
 第二に送電ロスを押さえること、海岸線で発電される火力や原子力のエネルギーをその場でピークシフト出来ればロスが減る。
 第三に下部ダム建設の必要がないこと、海を下部ダムとして使うため。
 第四に潮力が利用できる、微々たるものだが多少は効率向上を期待できる。
 海に近いと言っても、近すぎれば適地は殆ど無い。
 現在建設中の塩山発電所を下部ダムに持つ葛野川の揚水式発電所では、下部ダムと上部ダムの水平距離が約6.5キロメートルである。それを考えれば、有用なら海岸から15キロメートル位でもよい場所があれば利用できるだろう。
 揚水式発電の適地が少ないことは発電に必要な距離より、遥か遠くのダムまでトンネルを掘らなければならない事からも分かる(水路トンネル掘削にはトンネルボーリングマシンの開発で全て機械で行える)。またそれだけ長いトンネルを造ることからも揚水式発電の有用性を窺うことが出来る。

 実際に芦ノ湖を提案する。
 まず上部ダム、下部ダムの建設を殆ど必要としないことを挙げておく。
 比較として前に触れた葛野川発電所を例に取ってみる。有効落差714メートル最大出力160万キロワットである。比較していただきたい。
 芦ノ湖は、海岸まで約10キロメートル、標高724メートル、面積6.9平方キロメートル、平均水深25メートル。
 理論的に有用性を計算してみる。
 容積を20メートル×7平方キロメートル、有効落差を700メートルとする。容積と同量の水を使うとして10時間発電した場合、約2500万キロワットの出力で連続運転する事が出来る。
 芦ノ湖を含む範囲の電力会社は東京電力であり、約5500万キロワットの出力である。丁度50%の電力量が、ピーク供給力に大量に使われる資源である石油とガス類によって発電されている。つまり大まかな理論でいけば芦ノ湖を使えば東京電力が100%に近づいてピークシフトが行える事になり、更に石油、ガス類の使用割合が電力において小さい割合に押さえることが出来る。
 補足すれば現在ピークシフトのためには最大出力が、大きくても3000万キロワットあれば十分すぎるほど足りて、その出力で連続運転する必要はない。東京電力に限らず中部電力などの周辺の電力会社が利用してもまだ余力があるだろう。
 使用可能エネルギーが大きすぎるおかげで、エネルギーを使い切るには従来のポンプタービンでは何百台も使わなければならない。勿論エネルギー全てを使い切る必要はない。
 しかし機器の大容量化を図れば、その効果は計り知れない。技術を売ることもできる。

 大きな問題がある。
 芦ノ湖は淡水である。環境に影響があると言うよりか、完全なる部分的破壊と言ってもよいかもしれない。
 何らかの対策を講じない限り、淡水と海水が混ざり生態系は崩れる。
 総合的に考えると止む終えないと言う言い方は出来るのかもしれないのだが。ピークシフトと、それの導く効率の改善は、電力における火力発電の二酸化炭素その他の排出を大幅に減じる可能性を持ち、新たな河川のダム建設を削減することが出来ることから生態系の救済にも繋がる。 環境への影響は遥かに小さく押さえられる。
 石油などへの依存の削減が出来れば経済的にも政治的にも効果はあるのではないだろうか。
 対策を講じるとすれば、どこかにダムを必要とする(例えば地下)。水の圧力を利用すれば、(費用的、技術的に)難しくはあるが殆ど混ざらずに発電を行えるかもしれない。

  • 潮力の利用。

 潮力の利用は昔から考えられており、実用としてもフランスのランス潮力発電所というものがある。
 前出したが、芦ノ湖利用における潮力は計算したところ、潮差が少ないため効率の面から発電とはいかない。損失が上回るからである、しかし効率アップに役立つ。
 イギリス海峡に注ぐランス川は干潮の差が世界的に大きい。小潮差約6メートル、大潮差13.5メートルである。ランス川の河口から上流約4キロメートルにダムを建設した二方向、ポンプアップ併用式で1万キロワットの発電器を24台設置した年間総発電力量5.44億キロワット時の発電所である。因みに実用潮力発電所は他には調べた限りないようだ。
 潮力はエネルギー的には殆ど月の位置エネルギーである。友達に潮力発電のことを話したところ、潮力エネルギーを使い続けたら共鳴して月が落っこちちゃうと言う話になったが、まあ人類がそれを見る日は来ないだろう。太陽光と同様クリーンなエネルギーだ。
 新方式の潮力発電を考えた。潮差の小さい日本でも理論的には可能だ。ランス川より潮差の大きい北アメリカのファンディ湾の潮差を例に取ってみる。大潮差12.9メートル、小潮差9.6メートルである、一番潮が引いたときの高さを基準にする。潮差を10メートルと考える。
 0メートルから60メートルの高さの面積1平方キロメートルの容積を持つダムを使うとする。大変だがとにかく掘ったり作ったり適所を探す。
 夜間電力を使い、満ちている海水でダムを満たす(122.5億ジュール)。ピーク時である昼、潮が引いている時に貯めて合った海水で発電する(176.4億ジュール)。
 30年ほど前に書かれた本によると揚水式発電の効率が70%となっている。現在改善されたと考えて75%とする。
 発電力量に75%をかけ毎日1回のサイクルを行うと差し引いた年間発電量は約1億キロワット時である。これは日本の総発電力量の約0.01%であるがこれは水力発電にしては高い値でそれだけでも十分価値がある。
 ランス発電所でもポンプアップはしているが上乗せ程度、数メートル以上ポンプアップすることは構造上無理で考えられない。
 しかし考え出した新方式。つまりは水を引き上げて単位量あたりのエネルギーを増して潮力を利用するわけだが、それは主にピークシフトに適合しているような気がする。使われにくい夜間電力時に丁度よく潮が満ち、ピーク時の昼に潮が引いて落差を増している。 鹿児島県鰻池などに使えそうだ、その他まだ候補地は沢山あるだろう。
 新方式では発電量がプラスの時、上部ダムの容積を増せば増すほど発電力量が増えるという特徴を持つ。先ほど計算した10メートルの潮差の例で言えば面積を5倍にしたら発電量も5倍になると言うことである。また揚水式発電の効率が上がればその分上部ダムを高く造って発電力量を増すことが出来る。

  • 環境。

 元々あったものを大きく変えていってしまうことを自然破壊と言うならば、過剰なエネルギーの浪費や技術によって合成された多くのものは即自然破壊に繋がっていくと言えるだろう。
 ものに不自由しないということは歴史を振り返ってみてもごく僅かの例しかないだろう、大きな力がもたらすひずみである。限りのないと言っていいほどの物質やエネルギーは常識から言えば不自然である。核融合の開発が成功したとしても地球への負荷は既に限界に達しようとしている。
 原子力、火力、水力全て自然にとって歓迎すべきものではない。エネルギーを浪費しすぎなければ芦ノ湖などを使う必要さえないのだが。
 観念で物質は生まれないから、全ての人がただ理想や観念を追いかけることは出来ない。役割を持った人が楽観視やその場逃れで過ごせば、あとでその影響はでてくるだろう。
 日々の中で、より有用な構造の変化や切実感を受けなければ、観念による道しるべだけで踏み出していくことは難しい。
 江戸時代のような生活に戻ることは不可能だが、欲しくもないし必要もないものを購買欲をかき立てられて浪費したくはないものだ。


  • 参考文献

国立天文台編『理科年表』丸善株式会社。
茅陽一監修オーム社編『環境年表』オーム社
瀬古新助、高居富一、伊藤謙一共著『発電水力』オーム社
電気学会通信教育会著『水力発電オーム社
他に東京電力株式会社より幾つかの資料をいただきました。