『コインロッカー・ベイビーズ』
信頼【★★☆☆☆】
読易【★★★☆☆】
意義【★★★★★】
- 作者: 村上龍
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1984/01/09
- メディア: 文庫
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この本が出版された頃の社会的常識や価値観のベクトルをとした時、彼はそれとは大体逆方向に針路をとり表現世界を展開する。
通常、社会的常識と近接して成立する作品世界の場合、その価値は⇒B-A となる。ここで、一般的価値と対照させるよう方向付けすることにより、その作品世界の持つ価値は⇒B+A となる。
要は既成概念を壊しつつ、そこに更に特殊に暴力的なエネルギーを注ぎこむことによって、新鮮な驚きと異化、清新さを与える。とてもパワフルな作りとなっている。
しかし社会的価値は多様化してきたと言われ、そうなれば当然価値は拡散し個々を比較すれば弱体化していることになる。
それと共に、作品の持つ一翼の力が失われてゆく。
壊すための強力な型はなくなり、型破りも型崩しもなく、型なしの社会では新たな作品価値を作ることは大変な作業となる。
あの時作品の中で体験した経験は、今の自分にどんな影響を与えているのだろう。
キクとハシ、アネモネ。舌を噛み切った時の熱さの感覚、心臓の鼓動、ダチュラの狂気。
彼らは自分の中のどこの辺境に消えていったのか、あれらは自分の心のどこで塵のなかに埋まっているのか。
時代が移り変っても、神話は残りアネモネも残っている。
今、たまたま風が吹いて思い起こしたアネモネもキクもダチュラも、きっともう明日からの日常のなかで儚く眠りにつくだろう。