『異邦人』

信頼【★★★☆☆】
読易【★★★★☆】
意義【★★★★★】

異邦人 (新潮文庫)

異邦人 (新潮文庫)

「今日ママンが死んだ」から始まる冒頭や、「太陽のせい」という殺人動機が、一度読んだ読者には印象的に残っているのではないだろうか。
この作品の持つ文字通り異邦的感覚は、他の多くの小説と違う独特な雰囲気を描きだしている。


作者であるカミュの中のどのような作用が、主人公ムルソーに殺人を犯させたのかなど妄想するとイメージが膨らむ。
例えばカミュの母親が実際死んじゃってて、その時思ったことが作品に投影されているとしたら、近親者の死亡では鬱になることがよくあるから「無気力」「無関心」なんてのもよくわかる。ムルソーの「無感情」の中で、カミュ自身がその悲しみや感情の表現として「太陽のせい」での殺人という骨組みを必要としていたのかもしれない…。なんて事をつらつらと。
ずれるけど、この作品の「無気力」「無関心」は現代社会のなかでもキーワードなので、今後再評価されるかもしれない。


私にとってこの作品の持つ価値は、その異邦的感覚が大きい。
ふと立ち止まると周りの人が皆、自分とは違うように感じることがある。自分の感じ方が、他の人と違っているのではないかという不安。そんな時、人は孤独を思ったり体の芯から冷えてしまうような寂しさを味わうのかもしれない。