空白の時刻――日暮れ前

ヒグラシ(蜩)の鳴く声が好きだ。


昨日、初めて蝉の鳴き声を聴いた。
そのしばらく後、遠くにある森の方からヒグラシの鳴き声が次々に聞こえてきた。
リリィ…リレレレ…
森は結構な敷地がある(そのあたりは、幾つかの大学の研究用保有林(森)や未開発の地域がまとまっているのだ)。なので、いろんなものが棲んでいる。ヒグラシもいっぱい棲んでいる。


リリィ…レレ、リィーレレ、リィリィ…レレレー
あの鳴き声をどんな活字であらわせるのが暫し考えた。ヒグラシは「カナカナカナ…」で表すのが普通なのだけれど、そのときは「リ」や「レ」の方が自分的にはしっくりきた。
でも、こう書いてみるとぜんぜん違う、もしかしたら違う種類なのだろうか。


数日前に夏入りして、暑い日が続いてまたこのところ少し涼しい。
暑さ過ぎて、少しすずしくなったところがヒグラシらしくてとてもいい。


昼の強い陽射しと、夜の闇の間に、ふと時間の隙間を感じることがある。いや、<隙間の時刻>とでもいうのだろうか。
そんなときに、鳴く声がヒグラシにはもっとも適切かもしれない。
すこし不安定で、すこし切なくて。すこし寂しい。