ひとり
咳をしてもひとり
――尾崎放哉
この短い自由律の短文をはじめてみたとき、どきりとした。
これだけ短いのに、情景が直截に迫ってくる。咳の音が空間的時間的に、余韻を仄かに残す。
作者が誰かも知らなくてそれが作品であることさえ知らなかったけれど、ぽんと落ちていたこの短文が、異彩を放っていた。
言葉は、順序が変っただけで意味が変るし、色や感触が変ってしまう。
言葉を選んだり、つないだり入れ替えたり、とっても自由。限りない候補の中から意識的、無意識的に選ばれ文体ができる。文体は書き手を表すし、その時の書き手を表す。