(仮)ぼくはくまです(1)

 ぼくはくまです。
 もっと言えば、ぬいぐるみのくまです。
 突然のお手紙で失礼いたします。


 早速ですが、このような手紙を差し上げることについて説明します。
 実はぼくが手紙を書くことは非常に危険なことでありますのでそこから説明しますね。
 全国ぬいぐるみ条約8条1号により、人間の子供と話をすることは禁止されています。もちろん大人と話をすることはできません、話ができないから大人なのです。
 ちなみに日本の人間の方言に直訳すれば全国ぬいぐるみ条約なのですが、この条約は文字通り地球上の全て地域のぬいぐるみに適用されます。どちらかというと全国という日本の単語が、言葉と意味の合致においてあまり適切でないのかもしれません。どうでもいいですね、すみません。
 全国ぬいぐるみ条約8条3号では人間に手紙を書くことは禁止されています。しかし過去の解釈によれば、この手紙の内容をなんとかして伝えるためには禁止の除外となる可能性があります。それは私達の存在理由に関わる内容だからです。あなたがたの気持ちにアクセスすること。普段はすぐに忘れてしまうような、小さなこころのあたたみ。そしてそれを確認すること、これは私達にとってとても大切なことなのです。しかしこの解釈は同時に、とても危険な橋を渡ることでもあるのです。ですから、野放図に私の書いている内容をそのまま信じないでください。とても重要なことには、ある種の緊張が必要とされるのです。あなたはムヤミに鵜呑みにするだけでは、ここに意味は生まれないのです。どうぞあなたのイメージする力をお貸しください。きっと、それはあなたのためでもあるのです。