作文練習

あるべき場所(仮)(その1)

春日山城は本丸の櫓に、上杉景勝は一人御館方面を眺めた。 越後の3月下旬は、昼の陽射しのぬくもりを、あっという間に夕暮れの冷えた空気が包んでしまった。 珍しく晴れたせいか、焼け付くような夕焼けとなった。赤茶から白と赤黒へのグラデーションが空全体…

クリスマスの話を あなたに

今日は、歳も暮れ行く静かな休日です。 今朝、テレビでチェロ曲を聞きました。 クリスマスが近いなと感じつつ、バッハ大先生の『主よ人の望みの喜びよ』が自然にリフレインしています。 以前話をしたことあるかな、東欧を旅行したときにとある村に泊めてもら…

誰でもないぼくから何処かのあなたに

あなたが誰にも興味が持てないと言うのは、今目の前にいたぼくも含め周りに魅力のある人がいないからなのでしょう。 誰でもないぼくからだけど、何処かにいるあなたにメッセージしたいと思います。 何かを失うとぽっかりと穴があきます。 誰かが自分の中の一…

(仮)ぼくはくまです(5)

門柱に乗っかって、ぼくは道行く人を眺めました。 道行く人々はぼくをみました。きっとぼくが門柱に乗っているような状況と、ぼくのすがたの取り合わせが、ぎこちないから。行き交う人のみんながぼくをみている気がするほど多くの人がぼくを見ました。歩きな…

(仮)ぼくはくまです(4)

後々まで残る後悔や、生き方が変るような決意。計画的な道筋と論理的思考。そのようなものは、ぼくらにとってとても些細なことです。どうでもいいことなのです。 しばらくすれば忘れてしまうような。自分は意識していないような。そのようなささやかなもの、…

(仮)ぼくはくまです(3)

聡子が中学生になって、ぼくは彼女と一緒に通学するようになりました。ぼくは聡子の鞄にぶら下がって毎日出かけるのです。 電車に乗って文庫本を開く。淡い色の水玉文様のブックカバー。友達が電車に乗ってくると鞄に本をしまう。笑顔の挨拶。 予鈴が鳴って…

(仮)ぼくはくまです(2)

ぼくの生活について、すこし話ましょう。 聡子という子の部屋にぼくは住んでいます。部屋の本棚の下から3段目、カエルの貯金箱の左横が所定位置です。右のお隣さんは「みみずく」のぬいぐるみさんです。みみずくのおじさんは、毛並みがきれいで年のわりには…

(仮)ぼくはくまです(1)

ぼくはくまです。 もっと言えば、ぬいぐるみのくまです。 突然のお手紙で失礼いたします。 早速ですが、このような手紙を差し上げることについて説明します。 実はぼくが手紙を書くことは非常に危険なことでありますのでそこから説明しますね。 全国ぬいぐる…

満月と黒い雲

あたしは「あたし」とか「わたし」とかより「ぼく」が好きだ。 日記を書くときに、一番率直に自分を表しているようで。 だから、日記の中でだけあたしはぼくになる。 いらない、なにひとつとして。 なんにもいらない。 欲しいふりをしていても、だませやしな…

ばぁちゃんと俺と春

以下引用表示は、音声入力ソフトでの音声メモ版 春の昼下がりに、俺は電車に乗って外を眺めていた。 外には大きな記号何々があっ、性には8木崎の桜が、並んでいた。 俺はこの春から、この町に住むことになっている。 そのために引っ越しの準備をしていたと…

きいろいうさぎ

☆1 安心 暗い物置のなかにいる。 明るい部屋のようすが見えている。 階段の下の暗い空間は、時間が静かに進む。 明るい部屋の時間も、いつもより静かに進んでる。 戸を閉じる。 ここには自分しかいない。 お父さんも、お母さんもいない。 いつもここにはひ…

こころ痛くても

アナタはその人に心を開いていますか? それともその人に閉ざしていますか? この話は、ポーランドのクラクフでの出来事である。クラクフは以前ポーランドの首都でもあった古都で、プラハ、クラクフ、ウィーンがある時期には中欧の三大都市に数えられたこと…

あなたがいなくて ぼくは なにを生きてゆく どんな曲を奏でても それに何の意味がある どんなに叫んでも なにも変わらない ぼくには 語ることばが見つからない あなたはもういないから 一つもことばをもたない あるのは ことばのぬけがら

隙間

空気の隙間に 入ったことはありますか? 私は最近まで 空気の隙間 ずっと忘れてました 子供の頃 押入れや屋根裏みたいに狭い空間が好きでした それと同じように 人のいる広い場所では 空気と空気の隙間に よく入りました 人と話をするときは ちゃんと隙間か…

こぐまとさかな

こぐまとさかなは、深い森のログハウスで平和に暮らしていました。 だけれど、こぐまはあるとき思いました。 いくら大きくても、この金魚鉢では、さかなさんが暮らしづらいだろう。 こぐまはさかなに言いました。 「きっと、キミはこの鉢の中では暮らしてい…

hikari

「hikari」 破片を眺めていると 夕暮れの色が世界を染めあげて そら寒い肌が痛み出す 大事なものが見当たらない 途方に暮れて立ち尽くす丘 全て色の輝きが浮きがりだす音 はなたれてゆく光 大切な部品に手が触れる 過去の記憶が開きだし やわらかな硝子粒が…