(仮)ぼくはくまです(2)

 ぼくの生活について、すこし話ましょう。


 聡子という子の部屋にぼくは住んでいます。部屋の本棚の下から3段目、カエルの貯金箱の左横が所定位置です。右のお隣さんは「みみずく」のぬいぐるみさんです。みみずくのおじさんは、毛並みがきれいで年のわりにはサングラスをかけています、人間用のサングラスです。
 部屋には他にもぬいぐるみさんがいます。人がいないときには少しお話をしたりします。聡子が最近お母さんに叱られたとか、最近こんなお菓子を食べただとか。
 ぼくらには基本的に寿命はないので色々なことを急ぐ必要はありません。思いついたときに思いついたことをします。寿命は無いけれど、何かのきっかけでふと存在がなくなります。燃えていたほのおが、ふとそこから消えてしまうように。だからあまり物事に深刻になりません、なっても仕方がないのです。
 ぼくはぬいぐるみの中でも無口な方です。あまり喋りません、話をすることが得意ではないし、もっとぬいぐるみにとって大切なものを大事にしたいと思っているのです。それがぬいぐるみにとって基本的なことだと信じているからです。
 ちょっと漠然としちゃってますね、ごめんなさい。


 ぼくらにとってほかの日となにも変らないある日。
 聡子は部屋の扉をパタンと閉める。彼女はハァとため息をついて斜め上の方に視線を結んでる。
 ぼくらは彼女の様子を何も言わずに見守っています。
 彼女はストッとベットに腰掛ける。
 今というこのとき。匂いや空気の感触がとてもかけがえの無いものなのです。彼女と時を過ごしているこの時に、彼女が何を思い何を感じているかぼくらは同じ時を共有しているのです。
 夕暮れが過ぎたころ。外の光が静まった頃に、遠くのサイレンが微妙に音色を変えていった。聡子の父親も母親もまだ帰っていない。
 彼女は、ぼくを掴みあげ一緒にベットの中に潜る。
 ぬいぐるみにとっては、このように自分をかまってもらえるということの喜びは書き表すことができません。とっても、ほんとにとってもうれしいことなのです。
 聡子は、夕暮れのうちに体が冷えて、すこしこころが不安の幕に包まれているようにも思えます。ぼくのことをつねったり手足を動かして玩んだりする。そして抱きしめる。
 きっと彼女のこころには、すきまがあってそれがおおきくなったりちいさくなったりする。ぼくはそれを感じるし、そして今はそのすきまがおおきくなっているのだろう。それは別に悪いことではないと思う。


 ぼくはただ、いまのいまそれを彼女と共有しているのです。