(仮)ぼくはくまです(3)
聡子が中学生になって、ぼくは彼女と一緒に通学するようになりました。ぼくは聡子の鞄にぶら下がって毎日出かけるのです。
電車に乗って文庫本を開く。淡い色の水玉文様のブックカバー。友達が電車に乗ってくると鞄に本をしまう。笑顔の挨拶。
予鈴が鳴って机のサイドフックに鞄をかける。サリサリとノートにペンを走らせてから、溜息、窓の外。雲の動きを眺め、鳥、イチョウの木。後ろの子から背中を突付かれ、友達から放課後のお誘いメモ。
少しお洒落な靴屋さんで立ち止まる。いつもと違う街角でいつもより長めに迷っている。三人にぴっぱられて名残惜しそうに。
四人で巨大なパフェ。アイスにチョコシロップ、イチゴとマンゴー。長いスプーンをくわえて聡子が一言。三人は顔をゆがめてお腹を抱えて可笑しがる。
みみずくおじさんは、うんうんとぼくの話を聞いている。ゆっくり目をつむったり頷いたりする。ぼくらは聡子のことが好きなのです。
何年か過ぎて両親の都合で新しい学校に移ると、聡子とぼくらはまた同じように日々を過ごし始めました。
でも今までと何かが違うそんなある日。
ひとりでのお弁当にも慣れて、ひとりでの休み時間にも慣れてきた。
ぼくはその頃聡子の携帯電話にぶら下がっていて、引越し前の友達とぼくと聡子とで必死に不安を隠してた。
でも最近は前の友達からの返信が遅くなってきた気がする。
「…感じ悪いよね」
「しかもあのくまストラップ何?すっごい汚くない…」
聡子はその場にいられなくて教室を出る。
ベットに入ってずっと泣いている。お母さんが戸を叩いても扉は開かない。
学級委員長の女の子が英語のプリントを持ってきてくれる。負けちゃ駄目だって。聡子さんは、かわいいし気立てもよかったから先生にもヒイキにされてるって嫉妬されてるんじゃないかな。
よかったら今度は私の部屋に遊びに来てね。
お気に入りの靴を履いて、学級委員長の子の家に。丘の上の住宅街のセンスのいいお家。少し緊張しちゃう。くまさんをぎゅっとしてから、呼び鈴を押す。
フリルカーテンに、レース地のクロス、高級なティーカップに紅茶。でも何かがオカシイ。
この子は何を言っているのだろう。
うっ、なにこの味。これはお砂糖じゃなくて塩。
もう私は帰る。
靴がない。わたしのお気に入りの靴が片方、ない。
もういやだ。
なんで。
……。
ぼくが思い出せるのはそこまで。
思い出したくはないけれど。
そして、ぼくがいるのは駅の近くの道端。
こんなところに居たいわけじゃないけれど。
あたまのところがひりひり痛い。ストラップの紐ごと取れちゃったみたい。
道端にいると、スーツを着た会社員が靴先でぼくをひっくり返してから蹴る。
なんでだろう、どうしてだろう。
捨てられちゃったのかな、ぼく。
見捨てられちゃったのかな。