(仮)ぼくはくまです(5)

 門柱に乗っかって、ぼくは道行く人を眺めました。
 道行く人々はぼくをみました。きっとぼくが門柱に乗っているような状況と、ぼくのすがたの取り合わせが、ぎこちないから。行き交う人のみんながぼくをみている気がするほど多くの人がぼくを見ました。歩きながら見続ける人、友達にゆび指して知らせる女の子、横目で窺ってる人。
 そのおかげですね(はずかしかったけれど)。
 ぼくがこの手紙を書いているこの場所は門柱の上ではありません。それは毎日あの門柱の脇を通るあなたも既に知ってらっしゃいますね。ぼくはいまここにいることに満足しています。そしてそれはあなたのおかげなのです。


 ぼくは、今ぼくがこの手紙を書いている場所からあなたのささやかな行為に感謝を伝えるためにこの手紙を書きました。
 ぼくが消滅してしまわず、ぼくがぼくでなくならず、いまこの手紙を書くことができるのはあなたのささやかな思いやりがあったからなのです。つまりこの手紙の存在は、本来忘れ去られるささやかなぬくもりの証拠でもあるのです。



 さてこの手紙を読んでどのように思われたでしょうか。
 ぼくがこのつたない手紙を書いたことは正しいことだったのでしょうか。これはぼくだけでは判断がつかないことです。あなたの思ったことや感じたことにおいて判断してください。
 ただ、この手紙のルールを最後に書きましょう。
 ぼくらが大切にしているものを覚えていますか。それは、自分では意識しないようなささやかなことです。すぐに忘れてしまうようなことです。
 なので、この手紙についてあなたが判断したこと、もっとさかのぼればあなたが思ったことや感じたこと。それは全て忘れてください。ぬいぐるみのぼくからあなたへ出した手紙は、すぐに忘れてしまうこと。ぼくが書いたことを忘れてください、そこにそれが、なかったかのように。
 ありがとうございました。
 それでは。


 (おわり)